プログラミング学習の目的とは?

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2016年8月4~6日、教育用プログラミング環境Scratchの国際会議「Scratch@MIT Conference 2016」が米ボストンのMITメディアラボで開催された。

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このインタビューは、Scratch Conference 2016の閉会直後にレズニック氏の部屋で行われた。
聞き手に加えて、『小学生からはじめるわくわくプログラミング』などの著者でScratchを使ったプログラミング学習の国内における第一人者である阿部和広氏も質問者として、アラン・ケイ氏のもとでプログラミング・システムの研究開発に携わっている大島芳樹氏(所属はY Combinator Research)が通訳として同席した。
 
(聞き手は田島 篤=出版局)
 
教育用プログラミング環境として広く使われている「Scratch」の開発を率いるのが、米MIT(マサチューセッツ工科大学)メディアラボ教授のミッチェル・レズニック氏です。
教授は、コンピュータを用いた教育および、そのためのツールを研究しています。
 
このインタビューでは、教授に、Scratchの動向や小学校でのプログラミング教育のあり方について聞いています。
 
日本では、プログラミングが2020年から小学校での義務教育に取り込まれる見通しです。
 
この義務教育化への賛否とその理由を教授は、以下のように答えています。
 
 
 
  • 授業に「良く」組み込まれるのであれば賛成 

「義務教育化に賛成か否かは、プログラミングがどのような形で授業に組み込まれるかによります。
授業に「良く」組み込まれるのであれば賛成ですし、「悪く」組み込まれるのであれば当然反対です。
たとえプログラミングそのものの授業があったとしても、そのほかの授業でプログラミングを生かせれば、より良い学びになると考えています。」
 
 
しかし、授業に「良く」組み込もうとすると、先生の負担が高まり、現場では対応できないという声もあります。

 

  •  学年の壁や学校の壁を壊すといった革新的な発想が求められます

「この問は、プログラミングに限らないし、新たな課題として浮上したものでもないと思います。

 
新しい問題ではないという認識が大事であり、革新的発想がないとこの問題は解けないと思います。
もし私が学校を運営しているとしたら、先生の教育に力を入れるでしょう。また、学年を超えて、上級生が下級生を教えるようなスタイルを導入したり、学校外から教えられる人を見つけるようにするかもしれません。
 
いずれにしても、学年の壁や学校の壁を壊すといった革新的な発想が求められます。
こういう変化を学校にもたらすのは、プログラミングを教えることよりも、よほど難しいでしょう。
だからこそ、取り組む価値があります。」
 

日本では、一部の公立小学校(品川区立京陽小学校での取り組みのように、6年生が1年生を教える事例が出てきています。ただし、そうした体制になるまでに2年かかっています。この期間を短くすることは可能でしょうか。

 

  • 私のゴールは一貫して、表現手段としてのプログラミングなのです

 
「短期間での実現を目指すことも必要とは思いますが、やはり長期にわたって先生がきちんとプログラミングを教えられるようにするシステム作りが重要です。
 
プログラミング学習には、さまざまな目的があってよいと思いますが、私のゴールは一貫して、表現手段としてのプログラミングなのです。
 
プログラミングを計算機科学を学ぶうえでの学問の一環として捉える人もいます。
その場合、構築主義的にプログラミングを学ぶだけでは、基本的な知識や技能が身に付かないという批判もあります。
学問としてコンピュータを学ぶ、その一部にプログラミングがあるという考え方です。
 
私が思うに、どちらも重要です。基礎学力を付けるうえで、学問として学ぶことも大切ですし、自らの興味に紐付いた表現手法として学ぶことも大切です。
どちらか一方だけということではないと思います。」

 

学習効果を定量的に測る方法は?
 

関連した質問ですが、プログラミングを学ぶことにより、子どもが何を身に付けたのか、何を理解したのかを定量的に測る方法はあるのでしょうか。プログラミング教育における評価についてどのように考えますか。

  • 子どもたちが「クリエイティブ・シンカー」(創造的発想力を身に付けた人)になること

「よく同じ質問を聞かれるので、よい答えがあればいいなと思っています。
少し哲学的にいうならば、そういうことを問う人は定量化できる部分だけを気にし過ぎています。本当に重要なことは定量化できないのです。
ただ、これを言っても、定量的な評価を問う人には通用しません。
 
評価ということで、ちょっと別の観点からお話しましょう。MITの教授職において、定量的な評価は存在しません。
終身雇用資格を与えるときや昇進を認めるときは、評価対象となる教授の書いたものや成果で判断します。
また、ピア・レビュー(教授同士による相互評価)も実施しています。
MITの教授職において、定量的な評価を取り入れようという時代に逆行する動きもありますが、現時点では成果物で評価されるわけです。
同様に小学校でも(定量的ではない)評価をすればよいのです。
 
本当に大事なのは、目的は何かをきちんと把握することです。私の場合は、子どもたちが「クリエイティブ・シンカー」(創造的発想力を身に付けた人)になることです。
 
目的を「論理的思考力」にしている場合も多いようです。プログラミングで論理的思考力は身に付きますか。また、論理的思考力を身に付けるだけなら、算数を学べばよいのではという意見もあります
 
プログラミングを「正しく」学んだ場合は、創造的発想力に加えて、論理的思考力も身に付くと思います。
 
論理的思考力が目的の場合においても、算数に加えてプログラミングを学ぶのは有効でしょう。学びに対する意味付け、動機付けという点でプログラミングが役立つからです。」

 

プログラミングの効果は他の教科にも波及する?
 
プログラミングによる学習態度の変容は他の教科にも波及するものなのでしょうか。
 
 
  • プログラミングにより喚起された学びに対する意欲の向上、態度の向上は、ほかの教科にもあてはまります

     

「はい、その通りです。プログラミングにより喚起された学びに対する意欲の向上、態度の向上は、ほかの教科にもあてはまります。
プログラミングを通じて「学ぶことを学んだ」子どもたちが、プログラミングを離れても、物事に積極的に取り組むようになったり、試行錯誤するようになったりするというのは、日常的に見かけることです。
 

このためにも、繰り返しになりますが、プログラミング学習のあり方を考えるうえでは、その目的が大切です。目的の合意ができて初めて、「具体的に何をするか」についての議論が始まります。
目的の合意形成なしでは話が進まないのです。」

参考:米MIT教授インタビュー、プログラミング学習の「目的」こそが、そのあり方を決める

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